交際0日で「結婚しましょうか」と言われてうっかり「結婚します」と言ってしまったりかさんに、お友だちからの痛い攻撃と援護を受ける『私だったら結婚しない2』となります。
前回までのストーリー↓
この人が運命の人だ!!と熱情をもって結婚する人はどのくらいいるのだろう?
2
「えっ?借金??」
甲高い声がざわついたハンバーガーショップに響いた。とはいってもその声で振り返ったお客はいない。そこまで他人の会話に興味などない。
「そう。やっぱりさ、結婚するとなったら気になるじゃない?借金とか宗教とか」
「はっ?宗教??」
また、水川由香里はオクターブ上がった声を上げた。りかと由香里はひょんなことから知り合った。りかより10歳も年下の由香里は、なぜか年上ばかりと付き合う節があった。
「私もそれは結婚の条件に入ってくると思うよ。借金はあたりまえだけど、宗教だって変な宗教に勧誘されたらこわいじゃない」
谷麻子がりかに加勢した。麻子はなんとなく達観したところがあり、同い年だと聞いた時はりかは派手に驚いてしまった。なんとなく神秘的というか妖艶という言葉がよく似合う見目麗しき独身だ。
「宗教はともかくさ、借金って何よ?それダメなやつじゃない?なんで最初に確認しなかったの?」
「いや、由香里は知り合いの男に借金があるかどうかなんていちいち確認する?そんなこと知る前に「結婚しましょう」なんて言われちゃったからさ」
「なんでよく知りもしない人のプロポーズでイエスというのかが信じられない。普通そこはちょっと待ってじゃない?私だったらイエスは言わないな」
ぐうの音も出ないなと、りかは思った。確かに段階を踏むということにおいては5段飛ばしくらいしてしまった。だから今巻き戻して確認しているのではないか。
「で、いくらくらいあるの?」
「それがなんかごまかすんだよね。問い詰めたら100万円くらい?よくわかなんないとか言っちゃって」
「ありえない、ありえない。わかんないとか絶対嘘だよ。すげーーーあったらどうすんの?」
それか怖くて聞けないから困っているのではないか。由香里は否定的なことしか言って来ない。りかは麻子に視線を移した。
「麻子さんはどう思う?」
「う~ん…どういう借金かにもよるよね。両親の借金肩代わりしていますとかさ、競馬の負け込んで借金していますとかさ、夢のための投資しましたとかさ、奨学金の返済ですとかさ、いろんな借金があるからね」
りかはそんな視点があるのかと少し驚いた。
「麻子さんだったらどの借金だったら許す?」
「許すとか許さないとか問題じゃないよね。そもそも借金なんてその人だけのものなんだから。別にりかちゃんが返さなきゃいけないもんでもないしね。もしかして払わなきゃ、返さなきゃとか思ってるの?」
ぐっと言葉に詰まったりかを差し置いて、由香里が声高に言った。
「えええ~どんな借金でもやだな~。私だったらもうお断りだな」
確かに、結婚前にお相手に『問題』が見つかることはあるだろう。条件的なことでなくても、価値観の違いとか、生活習慣の違いとかそんなことも浮上する。
そこをすり合わせてから結婚するものなんだろうなと、りかは思った。
それを全部すり合わせてから結婚する…?なんとなく心がざわついた。そればかりを考えていて結婚までたどり着けるものなのだろうか?
「そもそもさ、借金もそうだけど、さっきまで初デートの遅刻の話ですごい彼氏のことディスってたよね?どこがよくて結婚することにしたのよ?」
あまり答えたくない質問だなとりかはしばらく逡巡した。正直どこと言われても明確が答えはなかった。
「しいて言えば、怒鳴らないところ…かな」
「でもさ、遅刻して問い詰めたらムッとして言い返してきたんでしょ?まだ付き合い始めだからセーブしていると思うけど、そのうち怒鳴り始める気がするな。そもそも彼氏のこと大好き!愛してる!!っていう熱も感じられないけど。普通は愛しているから結婚するもんじゃないの?」
どこまでも否定的だなと、りかはげんなりした。話さなきゃよかった。
「由香里ちゃんはさ、まだ20代前半でなんとなくの焦燥感がないからそういうこと言えるんだと思うよ」
なぜか店の外に目をやりながら麻子が言った。
「30過ぎるとさ、なんとなく焦るもんなんだよ。結婚したいとかなくてもね。周りが結婚して子どもが生まれて…なんてことが起きると、結婚願望がなくても、子どもが欲しいって思っていなくてもね」
「ふーん。それでも私は好きでもない人とは結婚したくないな」
麻子がフッと笑ったように見えた。美人は何をしても様になる。
「りかちゃんはさ、特にこれ!っていう決め手がなかったにしても、本能的にこの人だって思うところがあったんだと思うよ。ねっ?」
美人で仕事もできて思慮深い麻子の言葉だからすがりたくなった。
結婚相手としての条件もよくはない。顔を好みというわけでもない。遅刻もする。借金もある。恋は盲目というほど愛があるわけでもない…。そうなると結婚するといったのは、ただの年令という呪縛のせいだったのだろうか。無職であることの強迫観念からだったのだろうか。家族のプレッシャーから逃げたかっただけだったんだろうか。
そんな理由で人生の決断をしていいものなのだろうか。
そもそも、そんな理由で結婚するのは浩二に失礼なのではないだろうか。
りかの反応が鈍くなったせいか、由香里と麻子は最近ネットを賑わせている芸能人の話を始めた。
その後はとりとめもない会話で大いに盛り上がった。少しの悪口と沢山の笑い話と。女友達とのくだらない話はストレス発散になる。くだらなければくだらないほどいい。
沢山笑って終電間際になって解散になった。
別れ際、ダメ押しとばかりに由香里が言った。
「私だったら結婚しないな」
言葉を失ったりかに、麻子が言った。
「りかちゃんが決めたんだったらそれでいいと思うよ」
「私だったら結婚しない」と「自分で決めたんだからそれでいい」という言葉がなぜか両天秤の上に乗せられてユラユラしている映像が頭の中に居座った。
どっちが重いわけでも軽いわけでもないようでユラユラ揺れ続けている。この揺らぎがぴたっと止まった時に掲げられている方を手放すんだろう。
はたから見たら『結婚に向かない』相手。
それでも『私が決めたのだ』と言える相手。
どっち天秤が高くかかげられるだろう。
信号が青にかわって一斉に人が流れ始める。りかも一歩を踏み出して歩き始める。夜の繁華街の交差点は人がぶつかり合いそうで合わない。こんなにも人が大勢いるのに、その中から一人を選んで結婚するなんて、どれくらいの確率なんだろう。りかは終電に間に合うかなと心配になり、小走りで駅に向かった。
*******
電車の中で浩二に連絡してみる。
既読になってもなかなか返事が来ない。携帯を凝視している自分自身がなさけなくなった。そんなに好きでもないといいながら、なぜこんなに返事を待ってしまうのか。気にせず居眠りでもしておけばいいのに。
最寄り駅間近になって返事が来た。携帯の振動に慌てて画面を見る。
全く意味がわからない。いつになったら質問に対する答えが返ってくるようになるのかと、りかはため息をついた。
(つづく)
一回「結婚します」と言ってしまったからには、引き返せないのか…?何に軸をおいて未来を選択するものなのかわからなくなっちゃったんですかね?
りかさん、がんばって!
浩二さん、会話はキャッチボールですよ!ドッチボールじゃありません。
続きはこちら↓
私だったら結婚しない 第3話
私だったら結婚しない 第4話
私だったら結婚しない 第5話
*********
ただいま、LINEでお友達追加していただけると、無料で1往復無料お悩み相談承り中です!
「かっこいいこと言いたくなった」時に「かっこいい風」の言葉が送られてくることも!?