価値観や感覚が違う人が一緒に暮らす時、いろいろぶつかり合うもんです。
その価値観どっから持ってきたんでしょうね?それをなんで譲歩できないんでしょうね?
『私』が大切にしたいことは何なんでしょう?
前回までのストーリー↓
交際0日で結婚を決めたりかさんと浩二さんの結婚までのストーリー3話です。
3
慣れとは恐ろしいものでもあり、素晴らしいものでもある。
ビルの壁に掲げられた能天気な仕掛け時計が騒ぐのを聞くのは3回目だ。安定の大遅刻。今日は車で来ると言っていたから渋滞にでも巻き込まれたか、いや多分、謎の時間感覚のせいだろう。
最初の数回は「事故にあったのでは?」とか「どうしようもない理由があるとか?」とあれこれ考えて不安になったり、心配になったりもしたものだが。さすがに毎回となると不安も心配もしなくなるものだ。
「浩二にはきっとラテンの血が流れていて、ウチナータイムの血流なのだ」と思い込むことにした。そうしないと腹が立って1日が台無しになる。
我ながらいいことを思いついたと、りかは満足した。
遅刻されるとわかっているのに、どうしても待ち合わせ時間より少し前に到着してしまうのは、りかの性分なんだろう。どうしても遅刻が許せないのだ。
「遅刻は時間泥棒だ!!」とよく父は怒鳴っていた。幼少期からよく聞いた言葉。母は時間にルーズで時間通りに家を出たためしがない。その度に父の怒声を聞いていた。りかはこの大きな声を聞くたびに、身がきゅっとする感覚に襲われる。遅刻できなくなったのは、このせいなのか。
りかは小・中・高と一度も遅刻をしたことがない。なのに、同じ環境で育ったはずの姉はよく遅刻をしていた。高校なんて遅刻をしなかった日があるんだろうかと思えるくらい毎朝遅刻していたように思う。そして父に「遅刻しそうだから車で送って」とよく頼んでいた。
そんなことをする姉が不思議だった。なんでそんなことを頼めるのかと。父も怒鳴り散らすこともなく送ってあげていた。
かといって姉ばかりが贔屓されていたということもなかったはずだ。姉妹で差別を感じたことはあまりない。
よく姉は両親によく反抗していた。問題も起こしていたのにあっさりと「送って」と頼めるのはどうしてなんだろう?
りかは頼むこともしなければ、反抗もしたことがない。とにかくあの怒鳴り声を聞くのが苦痛だったということもある。怖かったのかもしれない。
なにをあんなに怖がっていたんだろう?
浩二に「結婚しましょうか」と言われてから1か月後くらいに同居する両親に「結婚したい人が現れた」と話をした。
父親は素直に喜んでくれた。
母親も「よかったじゃない」と言いつつも「お姉ちゃんより先に結婚しちゃうのね」とか「前の会社の同僚ならお給料は大したことなさそうね」とか「りかちゃんはああいう顔がタイプだったなんて知らなかったわ。もうちょっと面食いかと思った」と相変わらずの文句っぷりだった。
姉は母親の愚痴やご近所さんの悪口が始まると早々に姿を消す人だった。りかがいつも母親の愚痴の聞き役だった。幼少期はそこまでいやだなと思ったことはなかったが、やはりそればかりだと辛くもなる。母親の愚痴も年を取るにつれてエスカレートしていくような気がする。
りかの付き合う人の批評も毎回ひどかった。容姿から始まり、学歴や職歴、お家柄のこともあれこれと詮索し、なんだかんだとケチをつけるのだ。
それに対して「やめて」というと、本人はそんなつもりがないらしく「悪口なんていってないじゃない」としれっとしていた。
それを聞くたびにりかは自分が悪いような気持ちになっていった。
ちょっと怒りっぽい父と、愚痴っぽい母がいるだけで、大学まで出させてもらい、大きな問題がない家庭で育ったことは感謝している。感謝するべきなんだろうとりかは思っている。
なにも問題はないし、幸せな家庭だ。
そんなことを考えていたら、ラテン人がウチナータイムで現れた。
「渋滞もひどかったし、駐車場がなかなか見つからなかった」と開口一番言った。
りかはまたかと思ってしまった。
「ホントに毎回謝らないよね? 遅刻は時間泥棒だっていつも言ってるじゃない。なんで遅刻するのよ!?」
「だから渋滞で駐車場が…」
「そんなの最初から考慮すればいいことだよね?わかるよね?なんでそれができないの?待つ方の身にもなってよ」
ムッとした顔をして浩二は黙り込んだ。なんで言い訳ばかりするんだろう?「待たせてごめんな」の一言が何で言えないんだろう?
りかはブリブリしながらも、こんな話ばかりじゃよくないと気持ちを切り替えて、
「で、今日はどこに行くの?」と訊いた。
「・・・・・」
はい、ノープラン。いつでもノープラン。これにはりかは腹を立てている。予定も立てられないのか。いつでも「りかちゃんの行きたいところでいいよ」「りかちゃんが決めていいよ」なのだ。
にもかかわらず「じゃ、浅草寺に行こう」と提案すると「えええ~そこしかないっけ?」という。
「おまえは依存バリバリの女子か!!」突っ込みたくなる。
決めさせておいて文句をつける。自分の希望は言わない。自分が行きたいところを相手が言ってくれるまで文句をつけ続ける。
誰かによく似ている。
*******
突然の「結婚しましょうか」から早半年が経っている。
あの時は潔くてかっこいい!と一瞬思ったりかだったが、ここまで具体的な話が出てこないとだんだん不安になってくる。
実際父親にも「はっきりさせられない男はどうかと思う。結婚の挨拶とかないのか!!」と大きな声で言われて辟易した。
今日こそははっきりさせるぞと意気込んでいたりかは、さっそく歩きながら問い詰めた。
「ねぇ、結婚するって言ったよね?いつすんの?する気あるの?なんか考えでもあるの?」
「ええっと…結婚するよ。りかちゃんの誕生日に結婚しよって思ってた!」
「はっ????そんな時間ないよ!もっとなんでもっと早く言ってくれな…」
なにかがおかしい。多分、突然問い詰められて焦って『世の中によくあるパターン』を言ってみただけなのではないかと、りかは思った。
だんだん浩二の思考回路もわかって来たつもりだ。
「ねぇ、私の誕生日いつだか知っている?」
「・・・・・・・・・・知らない」
怒りを通り越して笑うしかなかった。
(私、この人と結婚するのかな? それでいいのかな?)
もはや、頭をよぎるのではなく常に脳の中に鎮座してしまっているこの言葉を再認識した。
「私の誕生日ね、2週間後だよ」
「そうなんだ!なんか誕生日プレゼント買ってあげる」
絶対変なものはもらいたくない…とりかは強く思った。
でも、浩二に選んで欲しかった。こちらからリクエストするのではなく。
「なにが欲しい?」
「浩二さんがあげたいって思うものがいい」
浩二はそのまま何も言わず、ぶらぶらと歩き始めた。
「自分の顔に似せたお面は?」
「新選組の法被はどう?」
ふざけた話を楽しそうにしながらぶらぶら歩いていたら、ぴたっと止まって
「これにしよう」と一軒のお店に入った。
こじんまりとした日本風のお店。
『本つげ櫛専門店』
「どういうのかいいのかねぇ」と言ったきり浩二はにこにこして店の隅に立っている。
りかは夢中になって選んだ。
借金があると聞いて以来、食事にしてもなんにしても浩二にお金を出させるのに躊躇していた。借金があるのにお金を使わせるわけにはいかないと強情になっていたかもしれない。
値段を見ないで決めよう。
父親がよく言っていた。「男には見栄をはらせてやれ」
りかは浩二が心配だった。
お金をすぐ借りちゃう浩二が心配だった。
だからいつもお金に関してガミガミ言ってしまっていた。
もしかしたら浩二の自尊心みたいなものをぶった切っていたかもしれない。
迷いに迷った末、シンプルなとかし櫛を選んだ。
初めてのプレゼント。りかは心からうれしかった。一生大事にしようと心に誓った。
小さなつげの櫛が、りかの心の中に沈ませてしまった何かに触れた気がした。
何かをしてあげなきゃ。
助けてあげなきゃ。
どうにかしてあげなきゃ。
そんな思いの下に沈んでいる大切な何か。
素直に受け取る心。
湧き出て来た思いそのままに浩二に伝えた。
「ありがとう。生まれてから今までの中で一番うれしいプレゼントかも。ほんとにうれしい。一生大事にする。ありがとう。」
言ってからとんでもなく恥ずかしくなって俯いた。
浩二は「へへへ」と笑っただけだった。
(つづく)
どうしても問い詰め癖があるみたいですね、りかさん。
でもそうしないと話も事も進まないんでしょう。二人の行く末が見える気がして仕方がありません…。
恋愛も結婚も「どっちがどう」ということはなくてね「どっちもどっち」なんでしょう。
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